私は高校時代放送局に所属しており、毎年春と秋にはNHKコンクールや高文連に作品を送り出していた。
母校の放送局が何年目に当たるのかは実はちゃんとしらないのだが、放送室には古いビデオテープがたくさん保管されていた。大多数はVHSテープであり、現在でも大会の折にはバックアップとしてDVDの他にVHSテープを提出することになっている。
高校生の私はある日、昔の作品群を整理するために棚からテープをすべて出して整理をしていた。すると棚の一番奥底から段ボール箱が1つでてきた。段ボールを空けてみると、中身はすべてβカセットであった。段ボールに記された日付を見る限り、私はその段ボール箱を10年の眠りから覚まさせてしまったらしい。
その時は再生機器がないためβカセットはしまわれてしまったのだが、大学生になった今、私は再びそのカセットを手にすることとなった。
そのβカセットレコーダは不動ジャンクとして私の所に来た。Hi-Band Hi-Fi Beta、βIs対応のSONY SL-HF705だ。
簡単にショートがないかだけを確かめてコンセントに繋ぐと、液晶ディスプレイには時刻が表示された。しかし電源スイッチを押しても他の機能は起動しない。こういうのはだいたい電源部の故障であるので、とりあえずはカバーを開いてみる。
カバーを開いて正直驚いた。こんなに中身が詰まっているのか…
電源部には大きなトランス。どおりで重たいわけだ。その近くにはレギュレータ群が放熱板に留められていた。ひときわ目立つのはSTK5441という部品。
ネットで調べてみると、STK5441はSONYのβデッキに多く採用されており、熱により故障してメカ部が駆動しない故障を起こすそうだ。このデッキの症状はまさにメカ部が駆動しないことであったのでSTK5441にテスタを当ててみた。
STK5441の回路図、仕様書を見ると20Vの入力から5.5V、9V、12Vの出力がでていなければならないはずだが、このSTK5441からは5.5Vしかでていなかった。
9Vは12Vから作られているので12Vが出力されないと9Vも出力されないのだ。
一番綺麗に直すにはSTK5441を交換することだが、残念ながらこの部品は既に廃版となっており、入手できたとしても価格が高い。また電源部を直してもメカ部が正常である保証はない。
そこでSTK5441の12V出力とGNDから導線を引っ張り出して12VのACアダプタに接続してみた。
電源を投入するとガチャンとメカ音がして、画面が表示された。
これは行けると思った私は高校の放送室に押しかけ、βカセットを借りてきた。
後輩諸君は私がまた変なことを始めたと思ったことだろう。
テープは一番古い日付のもので1985年。30年前だ。
テープをデッキにセットする。いったいこのテープが再生されるのは何年ぶりのことだろうか。
それにしてもこのデッキのメカ部はすごい。フロントパネルが出てくるのと一緒に中のメカも出てきているのだ。つまり、フロントパネルを完全に納めなくてもテープはローディングされる。
再生ボタンに触れると、映像は正常に映った。日付は1985年5月。
この国鉄色のキハ40系は今はなき万字線を走行していた。
こちらのバスはいすゞBU04型。このビデオには焼失した3代目駅舎の姿も鮮明に記録されていた。
他のビデオもBGMにSEGA アフターバーナーIIのFinalTakeOff(メロディー有)やスペースハリアーの曲が使用されているなど、なかなかに時代を感じる内容であった。
デジタル化が終わり次第DVD化したものを母校には持って行きたいと思う。